中国の若者の失業率が21%オーバー…その背景にあるのは何か?
中国国家統計局が17日発表した6月の失業率(都市部)は5・2%で
前月と同水準だったが、16~24歳の若者に限ると21・3%に上った。
記録が確認できる2018年以降で最悪を更新した。
若者の就職難が深刻化する中、数字だけでも改善したように見せかけるため、
インターンシップを就職扱いにしたり、内定が出ない学生の卒業を認めなかったりする大学も出ている。
「中卒の同僚と(工場で)ねじを締めている」「火鍋店で清掃の仕事をしている」…。
インターネット上では就職難にあえぐ大卒の若者たちの投稿が話題を呼んでいる。
中国では2010年以降、大卒や大学院修了者が大幅に増加。経済成長の鈍化や
新型コロナウイルス禍などによる景気低迷が雇用を直撃する中、
若者の失業人口に占める高学歴者の割合が高くなっている。
政府系シンクタンク、中国社会科学院の研究チームの推計では、21年の都市部の若年層失業者のうち、
大卒者が42%以上、短大卒者も含めると70%以上を占めた。
複数の大学関係者によると、新卒者の失業率悪化の実態をごまかすため、
就職先が内定していることを卒業の条件にしたり、インターンシップ参加を
就職したことにするよう企業側に頼み込んだりする大学もある。
関係者の一人は「就職先が決まっていない学生がゼミ生の2割を超えた教員は、
次年度の契約更新に悪影響が出る」と打ち明ける。
北京の経済関係者は「都市部の若者の失業率は実際には30~40%に達している」と指摘。
このため、少しでも就職に有利な名門大にわが子を進学させたい親が増え、
北京大や清華大の見学予約は連日、家族連れの申し込みで埋まっているという。
中国紙、新京報は4月下旬、家事手伝いや親の世話をして
親から経済的援助を受ける「全職児女(専業子ども)」と呼ばれる若者の生活様式を
「職業」として肯定する論評を掲載。
「両親や祖父母が『雇用主』であり、世間が『負け組』とやゆする必要もない」と訴えた。
(引用ここまで)
引用元:中国、若者の失業率21.3%で最悪更新 就職難が深刻化…数字ごまかす大学のあの手この手(西日本新聞) - Yahoo!ニュース
先日、中学の大学生が卒業後に職が無いことに絶望して
卒業アルバムで死体の振りをする写真をたくさん撮影するのが、社会問題と化したニュースを書きました。
この記事を書いた時の16~24歳の失業率は20.8%でしたが、その後は21.3%と失業率が伸びてしまったようです。
今回の記事では中国全体の雇用情勢と中国共産党はどう考えているのか?まとめてみたいと思います。
1.中国の若年層の失業率が高いのは雇用のミスマッチが原因
中国の人口層で16~24歳の失業率が群を抜いて高い理由は、実は簡単です。
それは「若者達に人気のホワイトカラー(頭脳労働)の就職先が少ないにもかかわらず、若者が殺到しているから」です。
一方で、中国ではブルーカラー(肉体労働)だと、求人を出しても応募が来ない人手不足の現場もあります。
若者が就きたい就職先が少なく、現実にはブルーカラーばかりで就職を諦める…
そんな雇用のミスマッチが起きているのが、若者の失業率が高い原因です。
1-1.「幸せになってほしい」と教育に力をつぎ込んだ結果が就職難…。
中国の16~24歳の若者たちは、大多数が1人っ子政策世代の両親から生まれています。
両親は「たった1人の我が子には、幸せになってほしい…!」と、教育に熱心に取り組みました。
有名大学に通わせたり、ITやWebの教育、学習塾*1に通わせる…等々ですね。
中国の大学進学率は50%を超えると言われています。
そして親御さんの強い教育ニーズに応える為に、中国の大学数も増加しました。
結果、中国の就職市場には「みんな大学を卒業出来る頭脳明晰な子だけど、似たような子ばかり」が溢れかえりました。
そんな差別化が難しい中、中国の若者たちにとって最も強烈な逆風に晒される事態が起こります。
それは「新型コロナウイルス」です。
1-2.新型コロナウイルスでホワイトカラーの門戸は縮小してしまう…
新型コロナウイルスは中国の若者達に『人気のホワイトカラーが急激に新規採用を取りやめ、または縮小』という悲劇をもたらしました。
追い打ちをかけるように、世界中で半導体不足も起こり、元々狭まった人気の就職先が更に狭くなってしまいます。
こんな時「自国でダメなら、自由の国アメリカで一旗揚げてやろう!」と考える子も、一昔前ならいたでしょう。
しかし米中関係の軋轢や、新型コロナウイルスが中国発という背景もあり、米国での中国人に対する感情は悪化。
結果、自分の学んだ分野で働く口が見つからない若者が溢れているわけです。
1-3.中国の若者は何故ホワイトカラーにこだわるのか?
「ホワイトカラーで働けないなら、ブルーカラー(肉体労働)をすれば良いのでは?」
と、思うでしょうが、これを中国人の若者にも事情があります。
何故ならブルーカラー(肉体労働)は、中国社会で尊重されないからです。
なぜ中国の学校や親たちは、そこまで重い負担を背負ってでも子供の学力強化に血道をあげるのか。
それは「何がなんでも大学に入る」という強い観念があるからだ。
「大学に入る」ことはイコール「頭脳労働へのパスポート」であり、
逆にいえば大学に入れなければ社会で尊重される仕事に就くのは難しい――という
意識が強固にある。
引用元:中国の「宿題、学習塾禁止令」が目指す選抜社会 「誰もが成功できる時代」の終わり 次世代中国 | NEC wisdom | ビジネス・テクノロジーの最先端情報メディア
最初の文でも「中卒の同僚と(工場で)ねじを締めている」とありますが
言い換えるなら「工場は低学歴の人間が働く場所だ」という意識が根底にある訳です。
1-4.中国の若年失業率は46.5%だという意見も出ている
21.3%、5人に1人の若者が失業者という数字でも驚きですが、ほぼ2人に1人の46.5%が失業者だという意見も出ています。
46.5%という数字の根拠は、21.3%の公式統計は就職活動をしている人を対象にしており
家で寝そべる人や学生でない親に頼る人をカウントしていない為と述べられています。
真偽は不明ですが、正直な所、2人に1人が失業していてもおかしくないな…と感じます。
2.中国もブルーカラーは人手不足
日本でも建設や運送などブルーカラーの人手不足が著しいですが、中国も同様です。
もともと中国では大卒者のホワイトカラー志向が強い。
一方、人材が不足しがちな工場などでの就職は不人気で、
ブルーカラー市場に大卒者はほとんどいなかった。
実際、6年前の本連載では、大卒者の就職観を以下のように紹介していた。
「中国のブルーカラー市場とホワイトカラー市場は分断されている。
中国では『大卒=ホワイトカラー』という意識が依然として強く、
『メンツ』を重んじるあまり肉体労働を敬遠する傾向にあるためだ。」
高学歴化で大学卒業生らが増えていることが要因で、今夏には前年比82万人増の1158万人を見込む。
そこに「官製不況」が追い打ちをかけた。ゼロコロナ政策の長期化で企業業績が悪化。
さらに、大卒者の就職の受け皿となっていた教育、不動産、IT業界は、習政権の統制強化で採用拡大の余力を失った。
一方、工場労働者などブルーカラーの職種を中心に人手不足が深刻だ。
就職説明会の会場を訪れた鄭州の卸売会社で人事担当を務める40代の女性は
「高い給料を出せないうちのような小さな会社は人集めに苦しんでいる。若者も企業も共に大変だ」と疲れた様子だ。
日本では大学卒業後にブルーカラーとして働くのは珍しくありませんが
中国では大学卒業=ホワイトカラーの図式が定着しています。
でも皆が全員ホワイトカラーに就けるか?って言ったら、そんなことはありません。
2-1.ブルーカラーが忌避されるのは不安定な仕事だからという点もある
中国でブルーカラーが忌避される要因として「生活が不安定で稼げない」というのがあります。
中国は世界の工場と言われる程、安い人件費と労働者数で海外から製造業を呼び込み、世界の工場とまで呼ばれる程になりました。
しかし2023年6月には中国の工場が世界需要の低迷でストライキが頻発しています。
世界の製造品の3分の1を生産する中国の工場は、複雑なサプライチェーン(供給網)を形成。
このため中国経済は内需よりも輸出への依存度がずっと大きく、巨額の貿易黒字を生み出している。
製造業の企業は地方からの出稼ぎ労働者を何億人も雇っている。労働活動家によると、多くは臨時や非正規の雇用だ。
このため工場がコスト削減をしたい時には、労働者は無給残業や急な賃下げ、補償なしの解雇といった目に遭いやすい。
全部が当てはまるわけではありませんが、中国の工場は日本のブラック企業並みの扱いという場所も珍しくないようです。
そんなところに大学を卒業した若者が行きたがる訳はないですよねぇ…。
3.悪化する若者の失業率…中国政府の対策は?
悪化の一途を辿る中国の若者の失業率…これに中国政府は手をこまねいている訳ではありません。
中国共産党は2023年3月の全国人民代表大会・中国人民政治協商会議で、青年失業問題を最重要の国政課題に挙げています。
しかし様々な手を打ってはいるものの、目立った効果は無く、若年層当人には嘲笑されているのが現実です。
3-1.共産党「外資系よ!中国で投資しないアルか?」外資系「ええ…(困惑」
中国は海外の製造業により発展・雇用創出した国なので、引き続き海外からの投資を呼び込もうと躍起になっています。
しかし、外資の中心だった欧米の企業は対中依存度を引き下げる事に注力しているのが実情です。
また中国は2023年7月に反スパイ法を施行しました。
その結果「本当に中国は外資系を歓迎する気があるのか?」と、疑念を持たせています。
仮に海外からの投資で雇用創出出来たとしても、業績が悪化すれば海外の工場は閉鎖の危機に陥ります。
そしてストライキや社会不安のループ、あくまで外資の投資は対処療法でしかありません。
3-2.習近平「若者よ!農村に帰ろう!」若者・農村「ねーよ」
習近平「大都市で仕事が無い?なら田舎で農業をやればいいじゃない!」
マ〇ーアントワネットもびっくりな経緯で2022年に始まった「農村に帰ろう」運動。
これは大学卒業生が、農村で起業すると各種税制を優遇するというものです。
農村には高齢者しかおらず、小規模な農家や零細産業しかありません。
未来への成長エンジンになるものが無く、衰退は避けられない状況です。
じゃあそこに職にあぶれた若者を移住させよう!という訳ですね。
…いやいやいや、さすがに強引すぎやしませんか!?
実際の所はどうかというと、上記の記事を見るに、若者はおろか、受け入れ先の農村でもあまり芳しくないようです。
だが、今年このスクールが就職フェア開催を支援し、簡単な製造業を中心に200以上の求人募集をした際、
応募があったのはその半分以下だったと、Wang代表は言う。
地元の雰囲気は、それほど歓迎的ではない。
「われわれの工場の従業員の大半は、中年かそれ以上だ」と、
靴メーカーの九興控股(ステラ・インターナショナル)
1836.HKが運営する工場で働く事務員He Shaさんは言う。
工場の平均賃金は月額2700元だ。
都市部に住むミレニアル世代と、農村に住む家族や親戚との分断も大きい。
河南省の小さな町で育った27歳のLi Jinglongさんがその例だ。
現在は米国で教育を受けたデザイナーとして活躍するLiさんに、故郷に戻る考えはまったくない。
(引用ここまで)
3-3.中国メディア「家事手伝いも職業扱いしまーす!」え?マジで?
中国紙、新京報は4月下旬、家事手伝いや親の世話をして
親から経済的援助を受ける「全職児女(専業子ども)」と呼ばれる若者の生活様式を
「職業」として肯定する論評を掲載。
「両親や祖父母が『雇用主』であり、世間が『負け組』とやゆする必要もない」と訴えた。
引用元:中国、若者の失業率21.3%で最悪更新 就職難が深刻化…数字ごまかす大学のあの手この手(西日本新聞) - Yahoo!ニュース
「両親や祖父母がお金を出しているなら雇用主!つまり職業に就いているのと同じアル!」
…いやぁ~その理屈は、なかなか厳しいんじゃないかなぁ…。
家事手伝いは職業か否かは、日本でも論争になる点ではありますが。
この理論で家事手伝いを職業とした場合、まあ若年層の失業率は改善するでしょう。
ただしあくまで数字上は…となりますが…。
ちなみにこの新京報ですが、中国共産党所有のタブロイド紙です。
つまりソース元が中国共産党公式なんですねこれ…。
今後も中国の若者には辛い時代がつづく…
前回の記事を書いた時、中国の若者の失業率が20.8%という数字には正直おどろかされました。
そして今後も上がっていくだろうと思いましたが、わずか数日で0.5%を上回るのは恐怖すら覚えます。
「お前のような中年無職と同じにするな!」と怒られそうですが
国は違えど、若い人達が将来に希望を持てないのは可哀そうだと思うのですよ…。
*1:2021年7月、中国政府は学習塾の新規開設、営利目的での活用を禁止しました。