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中国人「ヨソ者のせいでウチの子が受験に落ちた!デモを起こすぞ!」ここから見える中国が抱える大学入試の闇とは…

中国の西安で、入試結果に不満を持つ保護者が大規模な抗議活動を行いました。

背景には中国特有の受験制度がありそうです。

中国陝西省の西安市で抗議の声を上げたのは、日本の高校に当たる学校を受験した生徒の保護者たちです。

20日からきのうにかけて、ツイッター上に相次いで映像が投稿されました。

中国では、本籍地の学校を受験することになっていますが、中国や台湾のメディアによりますと、

隣の河南省から大勢の生徒が受験

その結果、「合格ラインが大幅に上昇して地元である西安の生徒が落ちた」と保護者らの間に反発が広がりました。

陝西省は人口が少ない割に名門大学が多く、隣の河南省から流入する生徒が増えているということです。

西安市の警察当局は、生徒が西安の学校を受験できるように

書類を偽造したなどとして教育機関を捜査し、10人以上の関係者を逮捕したと発表しました。

また、西安市は市外から受験した3600人の生徒について、

違法に受験していた場合は合格を取り消すと発表するなど騒動の鎮静化に躍起になっています。

「地元の生徒が落ちた」入試関係の書類偽造で10人以上逮捕 保護者が大規模抗議活動 中国・西安(TBS NEWS DIG Powered by JNN) - Yahoo!ニュース

(引用ここまで)

 

毎年、6月の7~8日にかけて中国では『普通高等学校招生全国統一考試』(通称:高考(ガオカオ)以降は高考と記載)が開始されます。

引用元の記事では『日本の高校にあたる学校』とありますが、実際には大学です。

 

そして高考は日本では大学入試試験に当たり、中国では高考で大学の入学合否が決定される仕組みです。

その高考の結果を巡り「本来合格できるはずだった西安の学生が落ちた」と、保護者がデモを行っています。

 

何故こんな事になってしまったのか?

それには中国特有の大学入学に関する根深い闇があるのです…。

1.発端は高考の結果に納得いかない保護者のデモ勃発

上記ツイートは2023年7月21日に、実際のデモをツイートしたもの。

和訳(Google翻訳)したのが下記文です。

和訳:西安市の学生の保護者が河南省からの帰国学生に対して

10日間にわたり市政府に抗議活動を行った。

 

ネットユーザーの投稿では最近、西安の高校入学試験で移民問題が起きており、

受験者11万人のうち、4万人以上が河南省出身で西安に戸籍がある。

 

教育局によると、帰国生は計3,608人で市の登録生徒数の3.5%を占め、帰国生4万人に関する情報は著しく不正確だという。

 

しかし、中国の大学入学試験にはどのような意味があるのでしょうか?

 

Twitterでアップロードされている現場を見るに、結構な人数のデモです。

「たかが大学受験じゃないの?デモまでするほどかね?」と思うかもしれませんが

ここまで大規模なデモになったのは、高考独自の仕組みと教育観という背景が原因です。

1-1.日本と違う独自の試験が高考の不満を生んでいる

高考は日本の大学入試とは、下記2点が特徴です。

  1. 試験内容は原則的に中国全土で統一(最近は地域ごとに変動という情報有)
  2. 学生の本籍地により入学者数を変動させる

デモの原因になったのは後者の2.です。

端的に言えば、同じ学力の学生が2人いる場合、自分の戸籍によって入学できるか否かが変わってしまうのです。

 

河南省出身の学生達が、入学者の定数が多い陝西省に戸籍を移動して受験した…。

その結果、陝西省に元々戸籍のあった学生の枠が狭まり、合格ラインも大幅に上がってしまった。

こんなの納得いかない!と、陝西省の保護者がデモを起こしている訳ですね。

1-2.高考の為に戸籍すら移動させる『高考移民』がまかり通っているのが問題

中国では出身大学によって、その後の人生が決まると言っても過言ではありません。

故に我が子には有名大学に通わせようと、保護者は様々な手を駆使します。

 

そうやって生まれたのが『高考移民』。

受験の時に戸籍を移して大学入学を有利に進める手口です。

 

批判は当然ありますし、日本の文科省に当たる中華人民共和国教育部は取締りを続けています。

高考移民の入学取り消しが、中国メディアに流れる事も珍しくありません。

それでも、高考移民は無くならないのが現状です。

1-3.良い大学の合否で一生が決まる…故に大っぴらに止めることが出来ない

中国の学生と保護者の教育観は、日本と大きく異なります。

中国では「有名大学に入れて尊重される人生のスタートライン…大学に入らないのはありえない」なんです。

(もちろん事情があって大学に入学しない、できない学生も存在します)

 

中国人の生涯年収は、出身大学で決まると言っても過言ではありません。

中国の学生にとっては「大学の合否こそが人生最大の岐路」なんですね。

2.舞台となった河南省(かなんしょう)と陝西省(せんせいしょう)の比較

今回の舞台となった河南省と陝西省を比較してみましょう。

 

地名 河南省(かなんしょう) 陝西省(せんせいしょう)
人口(2020年)(中国全土での順位) 99,365,519人(3位) 38,351,200人(16位)
中国全土大学ランキング100位内の大学 2校 8校

※1…人口数はWikipedia参照

※2…大学数は中国大学及学科专业评价报告(2020-2021) – 高考志愿填报服务专家からカウント

 

河南省は人口が9万人オーバーに対して著名な大学数は2校のみ。

陝西省は人口が約3万人強に対して著名な大学数は8校あります。

 

河南省の学生は人口が多い分、大学に入学できる定数が少なく難易度は高くなります。

逆に陝西省は人口が少ない割に有名大学の数が多いので、高考移民の狙い目という訳ですね。

他にも河南省と陝西省は隣接しており、地理的にも高考移民がしやすいのも理由の1つと言えるでしょう。

2-1.陝西省に中国大学ランキング100位内の『大学』が多数存在する

陝西省は河南省と比較すると、中国全土でも100位内というトップクラスの大学が多数存在しています。

地名 河南省 陝西省
中国全土100位以内の大学名(順位)

郑州大学(39位)

河南大学(88位)

西安交通大学(16位)

西北工业大学(34位)

西安电子科技大学(49位)

陕西师范大学(62位)

西北大学(72位)

西北农林科技大学(75位)

西安建筑科技大学(97位)

长安大学(98位)

参照元:中国大学及学科专业评价报告(2020-2021) – 高考志愿填报服务专家

 

河南省の学生からすれば、一番レベルが高い大学よりも、更に順位が上の学校が2つも隣の地区にある訳です。

更に陝西省の人口数は少ないので、陝西省の戸籍を持っていれば他の大学も合格率がアップします。

そういった背景を踏まえると河南省の学生や保護者は、こぞって陝西省に高考移民するのも理解できます。

 

余談ですが中国全土の大学数は、2,100校を超えると言われています。

その中でもトップクラスの大学を抱える陝西省は、中国でも秀才達が集まる学園都市と言えるでしょう。

3.高考移民が問題になった歴史は古い

中国版Wikipediaによると『高考移民は1990年代から戸籍制度の緩和と共に現れ始めた』と記載されています。

高考移民をする学生と保護者と、中華人民共和国教育部のイタチごっこは、一考に解決の糸口を見いだせていません。

 

中国でも特に根深い問題であり、冒頭のTwitterにもあった

「中国の大学入学試験にはどのような意味があるのでしょうか?(可是中共国的高考有什么意义呢?)」

というのは、高考移民の闇の深さを感じさせる一文です。

出典元:高考移民 - 維基百科,自由的百科全書

3-1.高考の前身は世界中で最も過酷な学力試験『科挙』

受験の為だけに、学生の本籍地を移すほどになった高考。

その前身は西暦598年~1905年まで行われた、世界屈指の難易度の学力試験の『科挙』です。

 

最大倍率は3,000倍と言われ、試験のプレッシャーや勉強の過酷さに自殺したり、精神障害を引き起こす者も出るほど。

一方で合格すれば本人と一族が莫大な栄誉と利益を得られる…まさに科挙の合格はチャイナドリーム

そう考えると科挙も高考も、本質的に大きな違いは無いでしょう…。

3-2.既に2000年代から高考移民はニュースになっている

高考移民による入学の取り消しやトラブルは、かなり昔からニュースになっています。

2005年には海南市の大学入学試験から340人が高考移民により失格(アーカイブ)になったこともあるようです。

2004年には大学入試試験の移民問題に関する2つの主要議論(アーカイブ)にて

高考移民について賛成・反対それぞれの意見を述べています。

 

いずれにせよ、高考移民が問題化して何十年経っても対策しきれていないのが事実です。

3-2-1.高考移民は身の回りの人を使って流入するのが主な手口

高考移民の手口ですが、学生の親戚や友人を移民したい地域に居住させて

後に学生が彼らの元を訪れて戸籍を移す…という手法が行われているようです。

もちろん当局や学校の調査が入るので、必ずしも成功するわけではありません。

 

また北京のように戸籍の移動が厳格な地域は、高考移民するリスクは非常に高いと言えるでしょう。

4.大学側が選考移民を辞められない2つの理由

高考移民が問題になるにつれ、大学側にも対策を求める声は当然あります。

しかし大学側には『財政』『学力レベル』という2つの観点から

高考移民を完全に辞められないのです。

4-1.理由1:高考移民は裕福な家庭が多く財政面でメリットがある

大学受験移民を申請できる生徒の家庭は一定の経済力を持っていることが多く

流入地域の学校も大学受験移民の生徒を入学させることで財政収入を増やしている。

(引用ここまで)

引用元:高考移民 - 維基百科,自由的百科全書

友人や親戚を流入先に移住、また役人や学校に便宜を図る為の付け届けなど

高考移民をするにはお金がかかるのは容易に想像できます。

 

逆に言えば高考移民は金を持っているのに、強引に禁止すれば学校の貴重な副収入が途絶えてます。

財政面で美味しい思いをしているので、積極的に学校側は高考移民を止めたくはない訳です。

4-2.理由2:高考移民は学力と熱意が高く、地元学生との競争を生む

レベルの高い大学に本籍地を移してでも受験する高考移民。

まさに背水の陣で受験する高考移民の受験に対する学力と入学への熱意は、地元の学生を凌駕します。

結果的に地元学生との競争を生むので、学力維持という観点からも大学にメリットはある訳です。

 

当然、地元の学生からしたら「そんなこと知るか!」と言いたくなるでしょうが…。

高考移民を行っても中国の若者は就職氷河期なのが現実…

かつて科挙に合格した人間は、莫大な富と栄誉を得るチャイナドリームを実現しました。

しかし高考移民を行って有名大学に合格しても、将来安泰ではありません。

2023年7月時点で、中国の若者の5人に1人は卒業後に失業という残酷な現実が待っています。

souta-k.hatenadiary.jp

 

「高考移民までやったのに卒業後は就職先が見つからずにニート…」

なんて光景があったら…ゾッとしますね…。