ジョージア国民「ロシア人の移民は帰れ!」と激しく反発するも受け入れを拒否できない…その背景とは?
「ロシア人は帰れ」国を捨てた先で待っていた”拒絶” 若者たちの苦悩【現地ルポ】
『「ロシア人は家に帰れ」。でも私に帰る家はありません』
ロシアの隣国ジョージア(グルジア)の首都・トビリシ。
観光客でにぎわう旧市街の一角で、ロシア人のナターシャさん(24)は表情を曇らせた。
ロシアがウクライナに侵攻を始めてから、1年5カ月。
祖国を捨てた多くのロシア人が流入したジョージアでは、今、反ロシア感情が最高潮に達している。
現地取材から見えたのは、さまよい続ける若者たちの苦悩だった。
(7月29日放送 「サタデーステーション」より)
(引用ここまで)
引用元:「ロシア人は帰れ」国を捨てた先で待っていた”拒絶” 若者たちの苦悩【現地ルポ】(テレビ朝日系(ANN)) - Yahoo!ニュース
ロシアと隣接する国、ジョージア。
人口が約370万人(日本だと神奈川県横浜市に相当)の国に徴兵を逃れる為や
ウクライナ侵攻に抗議する為に、ロシアから多くの移民が雪崩れ込んでいます。
ロシアからの移民の数は140万人程と総人口の約3分の1、世界でも類を見ない規模です。
これだけの移民が来れば、国民と移民でトラブルは絶えません。
ましてやウクライナという他国を侵攻している国からの移民です。
受け入れたくない!というのがジョージア国民の本音でしょう。
しかしジョージア政府は、ロシアからの移民を止めることはありません。
国民から強い反発を受けているにもかかわらずです。
今回の記事では
- ロシアから移民が押し寄せるジョージアという国について
- 何故、ロシアの徴兵逃れにジョージアが選ばれるのか?
- ジョージア国民がロシアの移民を拒否する5つの理由
- ジョージア政府がロシアの移民を拒否できない背景
これらについて解説していきます。
- 1.ジョージアという国はどこにある?
- 2.徴兵逃れでジョージアが選ばれる理由は5つ
- 3.ジョージア国民がロシアの移民達を拒否する理由3つ
- 4.ジョージア政府がロシア移民を拒否できない背景
- ロシアからの移民が多数帰国後、懸念される爆弾とは
1.ジョージアという国はどこにある?
画像元:Googleマップより
ジョージアという国は、ユーラシア大陸南西部に位置する国家です。
かつて旧ソ連国の1つでしたが、ソ連崩壊後のロシアとは国境を接しています。
ウクライナとも距離が近く、2023年でもロシアの影響を受けやすい国家の1つです。
2.徴兵逃れでジョージアが選ばれる理由は5つ
- 陸路続きで行けるので車があれば行ける
- ロシアの首都モスクワとジョージアの首都トビリシ間で直行便が飛んでいる
- ビザ無しで入国できる
- ジョージア政府・企業は歓迎ムード(ただしジョージア国民からは反発が強い)
- 陸路且つビザ無しで行ける他国の魅力が薄れた
数多の国から何故ジョージアへロシアからの移民が多いのか?その理由は上記の5つです。
徴兵を逃れる為にはスピード勝負、とにかく急いでロシアを出る必要があります。
距離が近くてビザ無しで入国しやすい国…この条件を満たす国がジョージアなんですね。
理由1.ジョージアは陸路続きなので、車があれば最短24時間で行ける
引用元:Googleマップより
ロシアの首都モスクワとジョージアの首都トビリシは、距離にして約2,000kmしか離れていません。
更に陸路続きなので、車を持っている人ならロシアからジョージアまで移動できます。
ただし最短の西側ルートはウクライナとの国境が近くにあるので、戦火に巻き込まれる可能性は少なくありません。
恐らくモスクワからE119に入り、ヴォルゴグラード経由でジョージアに南下する画像のルートだと思います。
理由1:補足①ジョージアと同じく陸路で行けるカザフスタンと比較した時の距離は?
ロシアからビザ無しで入国出来て、更に陸路がつながっている国『カザフスタン』と『モンゴル』の陸路を比較してみましょう。
モスクワ→カザフスタンの首都アスタナまでのルートがこちら。
距離は最短でも2,777km、移動時間も35時間とジョージアより移動距離が伸びています。
一方でカザフスタンは国土が広いので入国ルートが多数存在しています。
エカテリンブルグ等、東側に住んでいるロシア人はカザフスタンを選ぶ人も多いでしょう。
理由1:補足②ジョージアと同じく陸路で行けるモンゴルと比較した時の距離は?
次にモスクワからモンゴルまで陸路で行った経路です。
カザフスタンから更に東へ行き、モンゴルの首都ウランバートルまでのルートですが
最短距離でも5,969km、移動時間が78時間もかかってしまいます。
ジョージアとモスクワを往復するより時間がかかるので、モスクワからモンゴルへの移民は難しいでしょう。
それを穴場と見たのか、あるいはエカテリンブルグよりも更に東側の人間なのか…
モンゴルへ徴兵逃れる為に移民を企てた人もいるようです。
理由2.ロシアとジョージアの首都同士をつなぐ飛行機の直行便が再開した
ロシア運輸省は、ロシアの航空会社が国産の航空機でモスクワ~トビリシ間の直行便を週7便運航すると発表し、
ロシア外務省はロシア国民へのジョージア渡航自粛勧告を撤回した。
運輸省によると、航空各社は直行便再開に向けて機体確保などの準備を開始している
(「BBC」5月10日)。
一方、ジョージア経済省は、制裁対象となっていないロシアの航空会社に対してなら、
旅客輸送の許可を出す用意があるとしている(「Agenda.ge」5月15日)。
ジョージア航空は5月20日からのトビリシ~モスクワ直行便の航空券の販売をオンラインで開始した。
引用元:ロシア、ジョージア国民への短期滞在ビザを廃止、2国間の直行便を再開へ(ジョージア、ロシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ
ロシアの首都モスクワと、ジョージアの首都アスタナは直行便が飛び交っています。
ウクライナ侵攻後、ロシアに発着陸する航空機は激減しましたが
ロシアから数少ない空路で行ける国としても、ジョージアは重宝されている訳です。
理由3:ビザ無しで行けるので入国しやすい
ジョージアはロシアから入国の際に査証、いわゆるビザが必要ない数少ない国です。
ビザが必要ない=入国の難易度が低く、入国までの時間がかかりません。
徴兵を逃れるには、如何に早く他国にいけるか?が肝です。
そりゃ我先にとジョージアに向かおうとするでしょう。
理由3:補足①ロシアがビザ無しで行ける国一覧
イギリスのコンサルティング企業のヘンリー&パートナーズ社による
ロシア国民がビザ無しで行ける国は以下になります。
- アンティグア・バーブーダ…………カリブ諸島
- アルゼンチン…………南米
- アルメニア…………ユーラシア大陸
- アゼルバイジャン…………ユーラシア大陸
- バハマ…………カリブ諸島
- バーレーン…………中東
- バルバドス …………東カリブ海
- ベラルーシ …………ユーラシア大陸
- ボリビア…………南米
- ボスニア・ヘルツェゴビナ…………ヨーロッパ
- ボツワナ…………アフリカ大陸
- ブラジル…………南米
- ブルネイ…………南シナ海南部
- ブルンジ …………アフリカ大陸東部
- カンボジア …………アジア
- カーボベルデ諸島………… 北大西洋
- チリ …………南米
- コロンビア…………南米
- コモロ諸島…………モザンビーク海峡
- クック諸島…………南太平洋
- コスタリカ…………中央アメリカ
- キューバ…………中央アメリカ
- ジブチ…………アフリカ大陸
- ドミニカ…………カリブ海
- ドミニカ共和国…………カリブ海
- エクアドル…………南米
- エジプト…………アフリカ大陸
- エルサルバドル…………中央アメリカ
- エスワティニ…………アフリカ大陸
- フィジー…………南太平洋
- ガボン…………アフリカ大陸
- ジョージア…………ユーラシア大陸(ロシアから陸路で行ける)
- カザフスタン…………ユーラシア大陸(ロシアから陸路で行ける)
- モンゴル…………ユーラシア大陸(ロシアから陸路で行ける)
- グレナダ…………カリブ海
- グアテマラ…………中央アメリカ
- ギニアビサウ…………アフリカ大陸
- ガイアナ…………南米
- ハイチ…………カリブ海
- ホンジュラス…………中央アメリカ
- 香港 (中国特別行政区)…………ユーラシア大陸
- インドネシア…………東南アジア
- イラン …………中東
- イラク …………中東
- イスラエル…………中東
- ジャマイカ…………カリブ海
- ヨルダン…………中東
- キルギス…………ユーラシア大陸(移民する価値無し)
- ラオス…………東南アジア
- レバノン…………中東
- マカオ (中国特別行政区)…………ユーラシア大陸
- マダガスカル…………モザンビーク海峡
- マレーシア…………東南アジア
- モルディブ…………イギリス領インド洋地域
- マーシャル諸島…………太平洋
- モーリタニア…………アフリカ大陸
- モーリシャス…………インド洋
- メキシコ…………中央アメリカ
- ミクロネシア…………太平洋
- モルドバ…………ユーラシア大陸
- モンテネグロ…………ヨーロッパ
- モロッコ…………アフリカ大陸
- モザンビーク…………アフリカ大陸
- ミャンマー…………ユーラシア大陸
- ナミビア…………アフリカ大陸
- ナウル…………太平洋
- ネパール…………ユーラシア大陸
- ニカラグア…………中央アメリカ
- ニウエ…………南太平洋
- 北マケドニア…………ヨーロッパ
- オマーン…………アラビア半島
- パキスタン…………ユーラシア大陸
- パラオ諸島…………東南アジア
- パレスチナ自治区…………地中海東部
- パナマ…………中央アメリカ
- パラグアイ…………南米
- ペルー…………南米
- フィリピン…………東南アジア
- カタール…………アラビア半島
- ルワンダ…………アフリカ大陸
- サモア…………太平洋
- サントメ・プリンシペ…………ギニア海
- サウジアラビア…………アラビア半島
- セネガル…………アフリカ大陸
- セルビア…………ヨーロッパ
- セーシェル…………東アフリカ沖
- シエラレオネ…………アフリカ大陸
- ソマリア…………アフリカ大陸
- 南アフリカ…………アフリカ大陸
- 韓国…………ユーラシア大陸
- スリランカ…………インド洋
- セントクリストファー・ネイビス…………カリブ海
- セントルシア…………カリブ海
- セントビンセントおよびグレナディーン諸島…………カリブ海
- スリナム…………南米
- タジキスタン…………ユーラシア大陸
- タンザニア…………アフリカ大陸
- タイ…………東南アジア
- ガンビア…………アフリカ大陸
- 東ティモール…………東南アジア
- トーゴ アフリカ…………アフリカ大陸
- トンガ…………太平洋
- トリニダード・トバゴ…………南米
- チュニジア…………アフリカ大陸
- トゥルキエ(トルコ)…………ユーラシア大陸
- タークス・カイコス諸島…………大西洋
- ツバル …………オセアニア
- アラブ首長国連邦…………アラビア半島
- ウルグアイ…………アフリカ大陸
- ウズベキスタン…………ユーラシア大陸
- バヌアツ…………南太平洋
- ベネズエラ…………南米
- ベトナム…………東南アジア
- ザンビア…………アフリカ大陸
- ジンバブエ…………アフリカ大陸
引用元:Henley Passport Power | Henley & Partners
ロシアは領土こそ広大ですが、陸続き且つビザ無しで行ける国は
『ジョージア』『カザフスタン』『モンゴル』の3か国しかありません。
ロシアと密接な関係の中国がビザ無しでは行けないのは意外でしたね。
西側先進国でどこも該当しないのは予測の範囲内でしたが…。
ちなみにベラルーシも陸路で行けますが、実質プーチン大統領の操る傀儡国家です。
徴兵逃れでベラルーシに移民する意味はありません。
理由3.ジョージア国民の反発は激しいが企業・政府は歓迎ムード
ジョージアの企業と政府は、表立っては言いませんがロシア移民を歓迎しています。
その理由は2つ。
- 移民による多数の外貨がジョージアに流れ込んだ
- 若くて技術力のあるロシア移民が多数来た
ジョージア政府と企業によっては、ロシア移民のもたらす外貨と人材は、正に棚からぼた餅。
特に観光がメインのジョージアにとって、新型コロナで外貨収入が途絶えるのは死活問題でした。
しかしジョージアはロシア移民の持ち込んだ外貨で、他国を尻目に大復活を遂げました。
そりゃジョージアの政財界にとって、ロシアからの移民はウェルカムですわな。
移民側にとってもジョージア国民の反発こそ激しいものの、一部では歓迎してくれる人達がいる訳です。
どこの国でもロシア人として差別されるなら、少しでも歓迎してくれる場所に行きたいと考えるのが普通でしょう。
理由4.他の陸路で行ける2ヶ国は魅力が薄れた
ジョージアの他には『カザフスタン』『モンゴル』の2ヶ国がビザ無し陸路でいける移民先です。
しかしカザフスタンとモンゴルは、ジョージアと比較すると下記点で魅力が劣っています。
- カザフスタンは2023年1月末からロシア人の無期限滞在が出来なくなった
- モンゴルは距離が遠い上に経済規模が小さい
ウクライナ侵攻後、カザフスタンはロシアからの移民を積極的に受け入れていました。
しかし予想を上回る数の移民が流入、結果としてカザフスタン国内のインフレが進み国民の生活を圧迫。
やむを得ず、入国から90日以上の滞在が禁止されることになり、移民先として魅力が薄れました。
モンゴルは元々の経済規模が小さく、移民先で豊かになれるかは微妙です。
ロシア以外にも中国にも影響を受けやすい国なので、生活が不安定になりやすく魅力が薄いと言えるでしょう。
3.ジョージア国民がロシアの移民達を拒否する理由3つ
- 「ウクライナと同じ理由でジョージアも侵攻されるのでは?」
- 「金を持ったロシアの移民が多数来たせいで、インフレが加速した!」
- 「ロシアは2008年に領土を奪ったのに、今度は泣きついてくるのか!」
ジョージア国民がロシアの移民を拒否する大きな理由、それががこの3つです。
私個人の所感ですが「まあ、そうなるな」としか言えません。
冒頭の記事にもありますが、ロシアの移民達は反ウクライナ侵攻・反プーチンが主体です。
何とかジョージアに受け入れてもらおうと、努力はしているようですね。
しかし元々の住民にとっては「本当に信じられるのか?」と半信半疑の目で見られています。
これにはウクライナ侵攻の他、ジョージアとロシアで起きた南オセチア紛争も関わっている根が深い問題なのです
理由1.プーチン「ジョージア在住のロシア国民保護するので侵略するわ」←これ
ウクライナ侵攻の大義は「ウクライナで虐待を受けているロシア人を保護する為」です。
もちろん国際世論は「そんなわけあるか!」でしたが、この大義名分を掲げてロシアはウクライナに侵攻しました。
そんな光景を目と鼻の先で見ているジョージア国民の皆様。
彼らの隣にはロシアから逃げてきた移民が140万人もいます…。
プーチン「ジョージアで虐待を受けて(以下略」で、ジョージアに攻めて来るのでは?
と、不安に感じるのも当然でしょう。
理由2.ロシア移民によりインフレのスピードが上がり過ぎた
ジョージアに雪崩れ込んだロシア移民は、日本でイメージされるアフリカ系移民(難民)と違い、富裕層や中流層が主体です。
ジョージアよりお金を持っている国の富裕層・中流層ですから、多くの外貨がジョージアを潤しました。
更にロシア移民が移住先でお金をふんだんに使った結果、ジョージアのインフレが加速。
結果、元々の物価で暮らしていたジョージア国民が割を食う形になってしまいました。
ロシアの移民達にとっては、徴兵されたら高い確率で戦死、正に死活問題です。
「何としてもここに住んで徴兵から逃げないと!」と金に糸目を付けず、必死にばら撒いたのでしょう。
それが地元住民に大反発を喰らったのは、皮肉としか言えませんね。
理由3.ロシアはジョージアの領土を2008年に奪った前科がある
2008年にジョージアとロシアの国境沿いにて、南オセチア紛争が勃発しました。
詳細な背景は割愛しますが、ジョージアはロシアとの国境沿いにある
南オセチアとアブハジアが独立を宣言、ロシアが承認してしまい、領土を失っています。
南オセチア紛争でロシアの首相を務めていたのは、現大統領のウラジーミル・プーチンです。
言うなればジョージア国民にとっては前科者ですから、そりゃ拒否したくなるのも当然でしょう。
4.ジョージア政府がロシア移民を拒否できない背景
「過去にロシアが原因で領土を失ったし、インフレの影響を受けた国民の反発は当然だ…。
しかしロシアからの富と人材は、ジョージアを大きく潤しており、手切れできない」
ジョージア政府の本音としては、こんな所でしょう。
一方でロシア側も「ロシアに対する国際世論が悪化する中で、
味方となる国を1つでも増やしておきたい」という思惑があります。
ロシアから莫大な富とハイテク産業に強い人材が流れてくる以上、呉越同舟しかありません。
ジョージア国民が「ロシア人は帰れ」と叫んでも、ジョージア政府が追い返せないのは、これが理由です。
ロシアからの移民が多数帰国後、懸念される爆弾とは
2023年時点で、ロシアからの恩恵を受けるジョージア。
しかしウクライナ侵攻のケリがつき、ロシアの移民達が帰国を始める時が本当の危機です。
ロシアの移民達による富と人材はジョージアを潤しましたが、彼らも徴兵が無くなれば帰国します。
ではロシアの移民達の富が引き起こしたインフレのツケは、誰が払うのでしょうか?
もちろんジョージア国民達しかいません。
ジョージア国民もロシア移民の富の恩恵を受けているはずなので、一概に哀れとは言えませんが…。
いずれにせよ、遠くない未来のジョージアで、ハードランディングという爆発が起きない事を祈るばかりです。